アヴァロンの入り口(前編) ~グラストンベリ―・トア~

モイ!こんにちは、ロニーです。

遅れての投稿ですが、グラストンベリ―でのエピソードです。
色々ありすぎて長い一日だったので前編と後編に分けました。
では前編、いってみましょう。

 

2018年12月18日(火)
UK-England Glastonbury
イギリス・イングランド グラストンベリー にて

なんか明るいな、と思った。
朝日ではない。
目を開けた。

テントの上の外カバーが剥がれている。

網でできた内カバー越しに、揺れる木の枝が路側の街灯の光を切っているのが見えた。
マジかよ…

通常、テントは二重に作られている。

外カバーと内カバーがあって、この仕組みのおかげで雨水が染みてきたりするのを防げるのだ。

俺の安いテントは、床シートと網製のドームが一体型の袋状で、
その上からビニル布を覆い被せて地面に固定するような仕組みだ。

昨夜、風が強いと聞いたので、普段は使っていない安定させるための紐とペグも使ったのだけど、
それを上回る突風が来たようだった。

せっかく暖まっていた寝袋から這い出して網の外に出て、
脇に蛇腹状に潰れていたシートを再び広げて固定した。
ペグが3本、地面から抜けていた。

なおもびゅうびゅう吹き付ける風に邪魔されながら、なんとか再び外カバーを設置しなおす。
頼むからこれで朝まで保ってくれよ〜。

テントの中

不思議とオックスフォードの時より寒くない。
風がとにかく強いだけ。

おかげで風でたまに意識を引っ張られる時を除いてしっかり眠れてる。
時刻は4:30。
はい、二度寝二度寝〜。

木々

で、8:00を過ぎてようやく明るくなりだしたので起きてテントを畳んだ。

予報通りか。
風に乗って雨がぱたぱたと当たってくる。

あぁ、天気の良かった昨日のうちに予定通りグラストンベリーとレイコックを回れてればなぁ。
ま、そう言っても仕方ないんだけど。

風が吹き抜けてしまうのが難点だけど、テントが立てやすい場所だった。
昨夜パブで教えてくれたマーティン、ありがとう!

そこからまっすぐ向かったのが、あれ。

グラストンベリー・トア。

グラストンベリーは小さな町で、少し歩くとすぐに平野と畑の風景になる。
その町外れにそびえ立っている丘があって、それがグラストンベリー・トアだ。

住宅地の遠景に塔が見える

すっげぇ、なんてファンタジーな場所なんだ。

素敵すぎる2階建てのおうち

丘への登り道が見つかったから、茂みにバックパックを隠して登って行った。

雨風がけっこうキツイけど、犬連れ、子連れの人と数組すれ違った。

Torってなんだろうと思ってたけど、入り口に説明があった。
ケルト語でHill、丘のことだそう。

日本語の塔(Tou)を連想させる単語だから、
丘の上の塔のことを指すのだと思っていたけどそれは違って、
この丘自体がグラストンベリー・トアらしい。

上に立っているのは、町にあるグラストンベリー大聖堂の一部分だ。
大聖堂と同じ時代に使われていたということだけど、このトアの上の塔は建てられた年代が分かっていないみたい。
記録上では、13世紀に立て直しをした、というところからだそうだ。
丘の記録はローマ帝国時代からあるらしいので、6世紀ごろか。

トアに向かう階段

羊がその丘の裾野を自由に闊歩していて、登山道にも緑色の団子がたくさん落ちていた。
奴らの後ろの方から生産されるあの草団子ですね。

階段はゆるいけど、勢いよく上がっていくと心臓にくる。
ゆっくりと足を進める。

この丘は石と土が重なって出来ているのだけど、
そのままだと風化して行ってしまうため、芝を生やして土を固定しているのだそう。
上の塔までは、芝生を守るために出来るだけこのコンクリートの小道を辿ったほうが良いみたい。

丘の斜面の芝生と階段

もともと風が強かったけど、視界が開けたところからは次元が違った。

ゴオオオオオオオオオオオオ

八丈島の台風並みいいいい!

 

雨粒が風に乗って弾丸のようにバシバシ横顔にぶつかってくる。
風の音がゴオオと唸り声をあげて耳をつんざく。

コートのポケットに入れていたレシートが全て掻き出されて飛び去って行った。

手には寝袋の入ったバケツと食材を入れたトートバッグを持っているのだけど、
風の力で垂直下方向に下がっていたのが270°くらいの方向を向いている。つまり真横。

ってか風の力が強すぎて、足を踏み出す時に身体が持っていかれる!

グラストンベリー・トア

ジリジリと歩幅を小さくして、丹田を意識して歩かなきゃならない。
見えない空気の巨人の腹を押して歩いているようだ。

ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

風にあおられながら撮った写真

無理してでも写真を撮る!!執念!!

丘から見下ろす街並み

なんとか塔の中にたどり着いた。

グラストンベリー・トアの内壁

ふおおお。
塔には天井がなくて吹き抜け状態。
雨がかすかに降ってくるけど風は防げていて、ここまでの風が強すぎた名残なのか耳鳴りがした。

うへ、とんでもねぇ風だ。

今までの人生で1番風速が大きかったな、間違いなく。

トアの扉口から見る外の景色

アーサー王伝説の話を少ししよう。

アーサー王は妃であるグネヴィアを寝取った甥のモルドレッドと決闘して、彼を討ち取るが、
同時に瀕死の重傷を得てしまう。

そのアーサー王は、治癒のために船に乗って妖精の国アヴァロンへの旅立つ。
というのが筋書きになっている。

アヴァロンがどこなのか、といえ説は複数あるのだけど、
1つの有力な説がここ、グラストンベリー・トアだ。

昔この丘の周りは湿地帯で、トアは島のようになっていたという。

ボートが必要なくらいの池だか沼でここが囲われていたとなれば、
妖精の国への入り口と伝えられていた地に赴くのも理解できる。

丘陵と街並み

この塔自体はキリスト教における意味がある。

キリスト教が天の国へと近い建物を建てるのは、今までの大聖堂を見てきて分かってる。

また、キリスト教は土着の信仰を上書きして、
土着信仰の聖地やいわれのある土地に教会や聖地を建てるのも定番。
ケルト民族時代からの聖地であるアヴァロンの上にキリスト教の塔を建てるというのは、戦略に則ってる。

グラストンベリー・トアの外壁のレリーフ

妖精の国アヴァロンへの入り口がここ。

天地どちらにあるのかは分からないけど。

風のない満月の下であれば、間違いなくそのゲートは開かれるだろうなと思った。

今はヤバイけどおおおお!!!!!

ほんと風が危険すぎる。
壁から外に出たくなくなる。

その塔にまた1組のカップルが駆け込んで来た。
「フゥ、すさまじい天気だね!」

「この傘を開いたらメリーポピンズになれるわ!…あー、あー、あぁダメ、右耳がキーンっていってる」

一息ついてから写真を撮るために外に出た2人に別れを言って俺も下界に降りた。

下界へ繋がる階段

うおおおおああお風ええええ!!!!
なんとか無事生きて下まで戻ってこられた。

古い建物

ブロックの格子柄が素敵な住宅が立ち並ぶ通り

荷物を回収して、ステキな街並みを歩いて、
グラストンベリー修道院にやってきた。

ウェブ予約&支払いは済ませている。
£0のレシートを受け取って中に入った。

荷物どこに置いたらいいですか?って尋ねたら、
残念だけど荷物はどこにも置いちゃダメなの、全て持ち歩いてねって言われてしまった。
キビシイ(´Д` )

グラストンベリー・トアの歴史表示

最初はミュージアム。
といっても、せいぜい三根公民館くらいの広さしかないところ。(内輪ネタ)

修道院の廃墟の横壁

昔の大聖堂跡。
これがトアの上の塔と同じ時代に使われていたとされてる。

修道院の内側

なんて美しい崩壊の仕方だ。
たまらん。
廃墟好きの心が震える。

修道院の院庭

アーサー王の墓標

ここが、アーサー王の墓。

アーサー王はトアから船に乗って旅だった、とされているけど、
妃のグネヴィアとともにここに埋葬されたという別の記録もある。

その後掘り起こされて遺骨も別のところに移動したそうだが、この場所はそのまま墓として残っている。

客観的な記録が残る歴史的偉人と架空の英雄の間には歴然とした区別がある。

けれど、人は受け継がれたその人物像とエピソードを受け取って、
勇気を貰ったり、感動したり、学んだりする。

歴史を学ぶなら真実の史実が重要だけど、
人の心の中においては、英雄にフィクション・ノンフィクションの区別はなくてもいい。
理想的なのは、科学的史実と物語的史実の両方を並列で持てることじゃないかな。

彼アーサー王は我々の心に生きていて、それぞれのエピソードが、心の中で真実なのだ。

アーサー王の看板とささやかな花

丸い池

池。
ハーブ園

ハーブ園。
修道院らしい。

Tansy
Madder
Yellow chamomile
Woad
Feverfew
Betony
St. John’s wort

うちにある修道院のハーブ図鑑みたいな本で見た名前が花壇にズラリとならんでいる。
冬の時季じゃさすがにほとんど残ってなくて、
小雨に濡れた葉っぱがぽつぽつ、気丈に根ざしていた。

Borageというハーブ

キッチン。

修道院として使われていた時に、修道士たちの腹を満たしていたキッチンを再現したものがある。
小さくて重い木戸をギギッと開けると、不意に中から男性の歌声が流れ出た。

修道院のテーブル上の大きな鉢など

聖歌のようにゆったりとした旋律がホールリバーブかけられて、
石造りの丸いキッチン小屋を揺らしている。

歩きながら歌っている若いその男性。
こちらに気づいて、歌を止めずにニコっと笑った。

部屋はささやかにクリスマス仕様に飾られてはいるけれど、まぁ質素。

定期的に修道院の食事を楽しめる催しが開かれているようで、
12月ともなればクリスマスバージョンが当然ある。

予約もしてないし日付が全然違うので、まぁ縁はない。
どちらかというに日常の食事が気になるね!

窯

テーブルの上のフードサンプル的な物

1曲歌い終えた彼がゆっくりとした口調で挨拶をしてきた。

「やぁ、こんにちは。ここは歌が響いて素敵なんだ。」
「なんの曲なんですか?」
「今のはボブ・マーリーだよ。大好きなんだ。」
まさかのレゲエソング!!

歌い方でここまで印象が変わるのか。
「大学の頃にボブ・マーリーをカバーしましたよ。いいですよね~」
「なんの曲をやったんだい?彼の曲は全部歌えるよ」
すげぇ!!

「Buffalo Soldierとかやりました。」
「いい曲だよね」とニヤッと笑って彼が歌い始めた。

「Buffalo soldier~ dreadlock rasta~」
レゲエの旋律がチャントのように部屋を巡り、反響し、円錐の屋根へと吸い込まれていく。

ジャンルを超えて楽しめるって、素敵過ぎないか。

樽と小瓶

豚と鳥の丸焼き

入ってきたときのように無言で会釈をして、
ニコリと笑った彼と紡ぎ出される旋律を部屋に残して木戸を閉めた。

 

雨がやや強まった。
ここは大体見終えた。他に特に見るところもない。

どこ行こうかな。

目抜き通りに出店が出ていてアクセサリーなんかを売っている。

普段は全然気に入らないのだけど、この魔法のような町だ。

ちょっと覗いてみたらすぐにカッコイイブレスレットが目に入った。
うおおお!いいな!!
ほ、ほしいい!!

値段は30ポンド。
ぐ、ぐぬぬ…

露店で買ったブレスレット

買いました。
いやっほう!!
大事に使おう。

アクセサリーなんてほとんど買ったことないけど、
別に嫌いなわけじゃなくて、今まで気に入ったものと出会ったことがないだけ。

いい出会い、発見したぞ。

さて、出店のテントの下で雨宿りしてても雨水が道路に撥ねて容赦なく裾を濡らす。

そしてめちゃくちゃ寒い。
どこか店に入らないと凍えてしまう。

Heaphys Cafeってお店に入った。

残念ながらWi-Fiはない。
もう指が寒さで動かなくなってる。
早く温かいものを飲みたい!

カフェラテとソーセージパイ

ラテ(£2.50)とソーセージパイ(£2.30)を頼んだ。

でも現金がもうなくて、クレジットカードで支払おうと思ったらカード支払いは5ポンドからなの、って言われて、仕方なく5ポンドに割り増しで支払った。
釈然としない。

 

両手でラテの広口のカップを包んだ。
うー、解凍解凍。

フォークとナイフを掴む手に力が入らないせいでパイが切れなくて笑ってしまった。

さーて、この後どうしたもんかな。

もしあるのなら、この後レイコック直通なりチッペナム行きなりのバスを捕まえたい。
シェプトンマレット、メルクシャム経由のバスがあれば行けるはず。

ほかのルートで考えられるのは、ブリストル経由、バース経由。
どうなんだろう。

Wi-Fiが捕まれば早いのだけど、とりあえずバス停に行ってみるかな。
バス停に行くとちょうどブリストル行きのバスが出たところだった。
少し待たないといけないか。

昨晩使ったThe Market Houseの店の前に行くとWi-Fiが繋がったので、メール受信。

地図を確認して、ブリストルよりバースの方が良さそうだな、と検討していたらひとりの女の子が声をかけて来た。

「あなた、旅の人?なんでバケツ持ってるの?」
彼女の名前はKekie 、ケキーだ。変わった名前だな。

耳まですっぽり隠れる、黒い皮の深帽をかぶっている。
とりあえずめちゃくちゃ可愛い。

バスキング用にバケツを持ち歩いてるんだ、と説明したら、
「そうなの?!それなら週末に冬至のお祝いがあるから演奏しなよ!
この町の人たちはほんっとうにスウィートな人たちばかりだから、きっとたくさん友達ができるよ!」
と言ってくれた。

この魔法の町で冬至のお祭りだと!?
最っ高過ぎるだろ!!!
めちゃくちゃ参加したい!!!

けど待って、冬至って21日だから、まだあと3日もあるやん!!
既に予定より3日遅れてるから、そこまでここに滞在したら他にどこも行けなくなってしまう。

そして大きな問題として、この町には安宿がない。
つまり野宿は必須。

天気は雨、晴れ、雨、晴れ。
現実的にかなり厳しい。

めっちゃ参加したいけど…ごめん、先に進まないといけないから、と断ると、
ケキーはほんとに残念そうな顔をして「え~もったいないよ~残りなよ~」と未練をにじませた。

「そうだ、これからちょっと友達のとこ行って瞑想するんだけど、付き合わない?」
め、瞑想?
初めて誘われたぞ(笑)

う、うーむ、バス…
「大丈夫、バスならまだあるし、なんなら今夜うちに泊まればいいよ!」

…な、
なんだと…?!!

誘ってる??
誘ってます??

あばばばばば
い、い、い、イキますっ!

一緒に妄想…じゃなかった瞑想しましょう!

バス停のすぐ向かいあたりの建物、
裏手から中庭に入って雨に濡れた木の階段を登った。
Goddess Temple 。
入り口にそう書いてある。
聞き覚えがあるようなないような。

ケキーに続いて扉をくぐると、紫色の布が部屋を包んでいた。
木蔦で組まれた人形が数体、飾られている。

紫色の布をベールのように被り、山羊のツノを携えた、いかにも異教の偶像といった姿をしている。
女神が美麗に描かれた大きな絵の前には蝋燭が並べられている。

ザ、宗教って感じだけど嫌な気配や気分は全くない。
ペイガニズム的だからかな。

Goddess Templeが何か分からないけど、
女神信仰、有角神信仰、自然信仰が元になっているからペイガニズムと兄弟なのだと判る。

ケキーが友達に挨拶してる間にざっと部屋を見た。
「好きなとこに座って。普段瞑想はする?」
いや、しないなー。

魔女トレーニングとしての呼吸法とビジュアライゼーションは一時期やってたけど。
「ここでは特にスタイルはないから、自由な形でいいよ。
呼吸と心を落ち着かせて、ゆっくり好きなことを思い浮かべるだけ。
ロニーはなんかもう分かってるみたいね。」
そうなのかな?(笑)

多くは語らず、部屋の角に2人並んであぐらを組んだ。
特にポーズがあるわけでもない。
背筋を伸ばして、かつ力まず。

ケキーが目を閉じた。
部屋にいる他の数人もこちらに干渉する気は一切ない様子。

白檀とラベンダーと、何か幾つかの香りがブレンドされたようなお香が異世界に誘う。
なんだろうこの展開。

妖精の踊りの輪に巻き込まれたかな。

早朝のヒゴさんの後ろ姿、
アングンおばさんの山を見る横顔、
座禅を組んだニコ。

愛に溢れた素敵な人達の空気感が時空を超えて自分を包んでいる。
この見えない空気が、多分、愛。

 

 

何分経ったのかわからない。

目を開けて横を見ると、ケキーが同じタイミングで目を開けてこちらを見た。
無言で頷く。

ケキーは今は図書館で働いているそうで、ちょっと夜までやることがあるそう。

一緒に図書館に行き、また後で連絡するよ、というケキーを見送った。

~後編へ続く~


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